こわ~い白い泡
※若駒山岳会は安全に拘った山岳会であり、私の数ある体験談は若駒山岳会とはまったく関係ありません。これからの会活動としてリアルな体験談をもとに安心安全について考えるきっかけになればいいなーと思います。
沢登りをしていると色々な滝に遭遇します。水量の多い滝から釜へ激しく落ちるさまは、迫力があります。深く大きな釜へ激しく落ちた滝は落差の水圧で釜の中の水流がかき混ざられ激しく水しぶきを上げ釜の中はホワイトウォーター状態になります。
このホワイトウオーターには空気が40~60%含まれていると言われ、ライフジャケットも空気の中で着用している状態になり浮力は奪われてしまいます。さらにライフジャケットを着用していない場合は流れの力で水中深くに引き込まれ浮上できなくなります。泳ぎが上手いとか下手に関係なく浮力がないので泳ぐことできないのです!
では私の数ある体験談から一つ。その日は前日からの雨でかなり増水していました。5mほどの滝でしたが水量が半端なく深い釜はホワイトウォーター状態でした。ホワイトウォーターを避けるように釜を右から回り込み滝の落ち口まで泳ぎます。水中で立ち込める事ができれば滝の流れをまたぐようにステミングで登れるなと思いました。滝の右側の水中に足ががかりを探します。一手二手三手ほど滝の右側を登り思い切って両足で突っ張りステミングしますが岩は見た目よりもツルっとしていました。ステミングの幅として両手両足ギリギリでした。両手を突っ張った状態で右足を一手あげようと右足の力を抜いた瞬間、体が軽くなり気が付いたらホワイトウォーター状態の釜へ落ちていた感じです。
浮上して平泳ぎで一掻き二掻きしたと思います。しかし泳ぐことができず体は滝の落ち口の方へ引き込まれるのを感じました。白い泡の中でただただもがき、息が苦しくなるギリギリで浮上し、また引き込まれます。これを三度、四度、繰り返しながら以外と冷静に力つきるまでこれを繰り返す事しかできないなーと思いました。何度繰り返したのかよく覚えていませんが、もう浮上する力がわずかだなーと思ったのは覚えています。その時、白い泡で何もわからない状況の中で足に岩が触れる感覚がありました。引き込まれる流れから出ようと残りの力を振り絞り思いっきりその岩を蹴飛ばしました。しかしもう浮上する力は残っておらず呼吸ができなくなりました。頭がドンと重い感じで意識が遠のき、不思議と息苦しさが消え楽になっていく感覚も覚えています。なんか人の声が聞こえるなーというのも覚えています。ホワイトウォーターから抜け出した私を近くまで泳いで助けにきてくれていた仲間が引き上げてくれたようです。全身酸欠状態で意識がもうろうとし、手足を動かすことができずろれつも回らず喋ることもできませんでした。
人はこうして溺れます。あれから沢へいくたび、自分はなぜ生かされたのか自問自答しています。