沢登りにおいて(沢登りに限らずですが…)多くのルート本が簡単に手に入る時代に、初めてルートを開拓した先人の方々の苦労を感じながら、同じルートを辿るのも私の楽しみ方の一つでもあります。

30年~40年前の古い遡行記録には林道もなく、今の時代にくらべて道具も満足に揃わない中で、今よりも何倍もの時間と苦労をかけてルートを開拓した記録があります。

そんな貴重な記録を広く情報として発信し続けた方々がいたからこそ、その情報に興味を示すことができ、普段見る事ができない渓相に出会い、事前の下調べがリスクを減らし、安心安全に遡行させてもらっている事にも繋がっているのだと思っています。

そんな中で、何十年間も遡行記録を見ない忘れ去られた渓も沢山あります。そんな渓を訪れてはSNSで情報を発信し、情報を後世へ繋いでいく事も、ルートを開拓していただいた先人の方々への感謝の表し方だと考えています。

しかし、そんなSNSの情報に対して、ベストな風景だけを切り抜き、部分的な情報だけを全てのイメージとして捉え、行ってみたい、やってみたいになっていると感じる事があります。

例えば、とある北アルプスのゴルジュ系渓谷の存在をSNS等で知り、その渓相に心を惹かれ、その渓谷登攀を目標としたいが「何をすればよいのかわからないので教えてほしい」と相談をうける事がありました。それは言い換えると、必要とする技術が何で、それを習得するためには何をすればよいのか?という問いに感じます。

ゴルジュ系の渓谷登攀をやってみたいが、または目標とする山行をやってみたいが、どんなリスクがあるのかわからないと私には聞こえてしまいます。

「何をすればよいのかわからない」という問いについては、もっと渓谷登攀の世界、目標とするルートの歴史を知る所から初めてみてはどうでしょうか。

何年もかけて遡行や登攀するチャンスを計り、何回も計り知れない自然に跳ね返されながら敗退を繰り返し、ルートや道具や技術など創意と工夫を重ね、ようやく完全遡行や完全登攀を成し遂げる。開拓者という世界に触れ感じる事で、行って見たい、やってみたい思いを成し遂げる為に必要な事は何かという事について、自ずと考えが浮かんでくるのではないでしょうか。N-guy